平たいまま渇望する憐

夢現などという俗っぽい言葉。
そのような何にでも言い換えられそうに酩酊と快楽の中で喘ぎを嗚咽を響かせる私達。
可哀想に、彼は泣いている。組めど尽きせぬ欲望と私への愛で泣いている。
彼が捨てられないもの。捨ててはいけないもの。
彼が守るべきもの。守らなければいけない現実の人間達の事。
そんな重々しい現実と私への愛と欲望。
泣くがいいよ。泣くくらいなら考えるよりも気持ちがいい。


彼は捨てられないものの中で夢の尻尾をつかもうとして私を手に入れようとしている。
知らない間に幼稚な雄の夢の破片を拾い集めているうちに帰り道がわからなくなった幼い彼の心は、
わたしの胎内にぬるぬると飲み込まれて行くように、欲望の全てを受け止めてくれる私を求めている。
それが虚構であれど雄のただのくだらない、ひどい逃避だとしても。
私にはただのかわいいかわいい、先から涙を流した屹立を晒しているただの雄だ。
彼の守るべきものなど私が気にしなければいけない必要がどこにあるかと私は思う。
どこかで誰かの妻やおややが寂しい思いをしていたとしても、
それが私の胎内の粘着する想いと何の関係もない。


「だって、それはあなたが選んだのでしょう?」


私はそういっていつでも艶然と微笑んでいられる。
「生活」の枠から男が桃色の光る玉を求めて一歩踏み出した時。
それから地獄は始まるのだ。
社会や生活や責任やおややの成長から離れて、湖の底の汚泥のような鬼女の粘膜に包まれてしまった男。
それは葛藤と快楽と愛憎のはじまり。


ねえ、いつかあなたが言った事。
焼け付いた火箸を私の体に差し込んで、殺してしまうのが最後の夢だよと。
私は忘れていないのよ。
でも今日は最後の日ではないのね?
その焼け焦げた火箸を持って、免罪を請うような涙を流すあなたはとても可愛らしい。
彼が持つ火箸が私の晒された臀部へ、じうじうと音をたてて近付いてくるのが分かった。
ああ…わたしの細胞が焼ける音。
垢や皮膚や毛細血管が焦げていって壊死する香り。
悲鳴なのか、私は咽がやぶけそうなほどの大きな声を出して、
相対する震え失禁するほどの快楽を吸い取っている私。
焼けた臀部に何を残すつもりなの?
まさか…私達の愛憎の証拠?
そう思った途端、私は込み上げてくる笑い…高笑いにも似た愚弄の笑いが腹の底からとまらなくなった。
拷問と愛の行為を履き違えて泣きながら折檻している男の哀れ。
高笑いをする私を「狂っている」と泣きながら殴打する男。


私達が戻る場所は朝ではないのだろうか。