平たいまま渇望する憐

今ここで縄をかけられる。と、いうまでには多様な枚数があったのだろうけども…
私に思い出せるのは畳の荒れた表面と目の前にある成人像のみで。
そして、その像は動き出したかと思うと荒い目の茶色い縄を手繰り寄せては、
肩にかけしゅるしゅると音を立てながら「これから」に備えるのだ。
私はといえば、薄くて濡れた布を羽織らせられ口には捩じったものをかまされ、
そして縄をかけられていく。
そもそも手首なんていうものは最早何時間も前から茶色い縄でぎゅうぎゅうに固定され、
感覚なぞとうの昔になくなっており。冷たい指先から次第に痺れが浮かび上がっている。
足首も同様に陶器のような色になり、まるで他人の落し物を見るかのようだ。
首へまあるくたわんだ縄がかけられるのが見えた。
喉の下に縄の玉が見えた。
すると、急にその像が目前にあり「ああ、これは私の男だったのだ」と思い出す事ができた。
男はぎゅうと縄を下へやり、乳房の下をからめとり二の腕を脇へ固定し。
だんだんと私は固い繭のようになっていく。


その感覚は、謝ってしまいたいような申し訳ないような、不思議なもので。
私はだんだん血の流れが不自由になっていく全身に寒さと同時に温かい膜のようなものを思う。
確かに茶色い縄は細く全身にからみついているが、それは膜のようにはりつくような、
それでいて鋭利なもので締め上げられているような…
全身が粟立つように、力が抜けていく。


腰の後ろに気配がすると、それはやはり私の男であり。
口がぱくぱくと動いているところを見ると、何か喋っているようでもあった。
私は湯船につかって日本酒を飲んだ日の事を思い出しながら、だんだんと前屈みになる。
「ああ、確かあれは温泉だった。月見酒で酔いつぶれたんだった…」
その時の自分の醜態を思い出し、そして今の姿を想像してくすくすと笑う。
笑うたびにどこかに激痛が走る。
男は何をしているのか。
私は酔っぱらっているのに。